小林洋右さんのレビュー一覧
昨今、恋愛を中心とした携帯小説の氾濫は多彩さを極め、最早“小説”の範疇には収まり切らなくなっている。 形式を崇拝するのが果たして文学に貢献するのかは解らないが、けして見慣れぬ斬新さだけが優れたものでもあるまい。 だが本作品は、従来のメタフィクションともシュルレアリスムとも受け取れる作風の中で、しかし、新しい試みが溢れていて読む者を惹き付ける。ひとりの少女の心理的な変化が、実は試験的なこの作品を巧く纏めている。 生活、恋愛、戦争、死。そこに答えなんかない? しかし、それが何だ。日常、非日常の峻別は難しくとも、主人公、美菜の心を通して、読者は巷間の通念に矛盾を感じてほしい。この機会を逃せば、あなたに明日はないのかもしれないのだから。 久し振りに細かい手直しを要求したくなりました。それほどに素晴らしい。と言いますか、縦書きで読みたいですね。
河原から仰ぎ見る空には赤々と滲む夕陽が浮かんでいた。水面(みなも)は空の色を映して黄金色に輝き、とうとう我慢しきれなくなった太陽が橋の向こうへと落ちてゆく。 その光の中に、ひとりの女の姿があった。 控えめに垂らされた見えない糸が、数奇な前半生を送ってきた男と女とを結びつけようと波間に揺れる。 男は手繰り、女は振りほどく。 運命の糸、恋の糸、記憶の糸、死の糸と、それらはいっけん独立しているようでいて、しかし確実に絡み合っている。糸の向こうでは、掴めなかった過去が確かな未来となって待っているのだろう。 掴め。ひとたび掴んだなら離してもまた繋がるはず。 真夏の陽射し。プールサイドの照り返し。水に遊ぶ子供達のさんざめき。 二人の恋はまだ始まったばかりだ。 想像の余地があってこそ物語は面白い。全てが私の好みでした。
どこにもやり場のない苛立ちを。 他者と協調できない穿った個性を。 そんな歪みにも似た焦燥感を、若者はただ走る事でしか解消できなかった。 しかし、そんな若者が、タスキに懸けた仲間の想いを初めて理解した時……。 あとは読んで下さいね。
言葉で語られた話がイメージとして心に残る。 この物語をどう記憶するかは、読んだあなた次第です。 体験と実感の違いに戸惑うあなたを想像したい。 そんな気持ちでこのレビューを書いている私が居ます。
雨音にかき消される潮騒。 走る予課練生。 そしてひと筋の飛行機雲が曇天の空から海面に堕ち、穏やかな波のたゆたいを残して静かに消えた。 よく出来すぎた作品です。 一枚絵を見ているようでした。
過去の因縁が二人の再会を灰色に淀ませる。 ルイは虜になった姉を助ける為、果たしてこのままバチカンの圧力に屈してしまうのか。 とても魅力的なストーリーです。 のめり込みますよ。 作中に神父と魔女裁判が登場する以上、間違いなく舞台はヨーロッパのはずです。 ルイ(フランス名)とチャーリー(イギリス名)から憶測するに、きっとフランスなのでしょう。 そのへんの説明があれば、星は五つでした。 それぐらい面白い作品です。
一歩踏み出したら、そこに何かがあったのかもしれない。 逆に踏み出さなかったら、事情が変わっていたのかもしれない。 情熱の1ページに常に自らの決断を加えている主人公歌夜は、きっと過ぎ去った日々にも愛惜の念など抱かないのではないか。 この作品を読み終わって、後悔ばかりが浮かぶ自分の過去に、胸を掻きむしりたくなった中年がここにいます。 あなたもこれを読んだなら、自らが捨て去ってきた可能性に対して冷静でいられますか?
密室の閉鎖感が暗示する物語の根幹。 ほぼ独白に近い殺人者達の言葉を聞かされ、想像は悪い方へ悪い方へと傾いてゆく。 ラストに向かい、おそらくは恐怖に一番近いであろう奇妙なな気配が漂うでしょう。 早く最後まで読んで安堵してしまいたい、と。 あなたの良識はどんなラストを期待しますか?
この世に「愛」と言うものは数多あれど、それは必ずしも「恋愛」だけではありません。 親子の愛、友人愛、隣人愛、夫婦愛…… それら、あまねく愛すべてを描ききれてこそ、初めて愛を語る物書きになれるような気もします。 この作品には素敵な愛が登場しますよ。 文体はハードボイルド風ですが、ここに描かれているのはまごうことなき愛の物語です。 皆さん、 ちょっと読んでみませんか?
その時、解放と呪縛が交錯する。 快感と不快感が入り交じる。 でも、少し悦びの方が強い。 何故なら、罪悪感が歓喜に味方するから…… 夢ならば仕方がないのです。 人は常に上手な夢を見る必要がありますから。 まあ、読んでみて下さい。
今まで、携帯越しに見た恋愛小説の中でも最高の部類です。 人物描写がしっかりしている。 死人を出さずにキャラクターが処理できている。 書かれた全ての物に関連性を持たせている。 情熱的な南米の花と、日本人的な主人公のキャラ設定が対比的で見事です。 感服致しました。