「可愛がってるのね」
「…そう見えましたか?」
「うん。……棗くんのあんな優しそうな顔、初めて見たな」
一瞬、悲しげに下げられた眉はすぐに元に戻り、今度は私を見てニコリとする彼女。
「あなた、名前はなんていうの?」
「あっ、えと…沢田です。沢田花と申しますっ」
「花ちゃんね。私は綾小路久美子。よろしく」
惚れてしまいそうになる美しい笑顔を見せた綾小路様は、サラリと耳に髪をかけた。
そのなんとも可憐な仕草と雰囲気に、女の私も見惚れてしまう。
「おー?可愛いメイドだねー」
と、そこへ軽めの声が飛んできた。
そちらへ顔を向けると、茶髪の男性が私の目の前で立ち止まる。
「俺は小塚森真人。君花ちゃんって言うんでしょー?可愛いねー」
ヘラヘラと笑顔を近づけて来る小塚森様は、ぎゅっと私の手を握った。
私は突然のことに彼の顔と握られた手をせわしく交互に見る。
これは一体っ?
「こらーメイドに手出しちゃ駄目じゃない」
「小塚森くんの女好きも相変わらずねー」
「だーって可愛い子はほっとけねぇじゃん」
あちらの方で残りの女子達が小塚森様に声を掛け、そのまま小塚森様もそちらの方へ向かってしまった。
な、なんだったんだろう…。
とりあえず小塚森様は女好き、と。
「あなた」
そんな声が聞こえたかと思うと、不意に遠山副会長が私の目の前に立ち塞がった。
私はびくっと肩を跳ねさせて、逃げたい衝動を抑え踏ん張り立つ。
遠山副会長は苦手じゃない。遠山副会長は苦手じゃない。と私は心の中で自己暗示をかける。
それも無意味であるのは自分の引きつる顔で既に実感していることだけど。

