「棗様!前髪が乱れてますっ」




手を伸ばしてサラッと前髪を正す。


案外、見た目とは違って棗様の髪はとても柔らかかった。




「はいっ、大丈夫です!」


「…っ」




……?


なぜかパッと私から目を逸らした棗様は、少し顔を赤くさせる。


ど、どうかなさいましたか?




「…花はどう接すればいいか分からない」


「え!?」




そんなことを言う棗様を見て、私もつられて赤くなってしまった。



どういう意味だろうか。

私はそれを、良い方に受け取ればいいのか悪い方に受け取ればいいのか、どうなのか。


少なくとも私の心臓はドキドキと鳴り、良い方に受け取っているようです。




「距離感が分からない」


「へっ!?そ、それは棗様達だってそうですよっ」


「…え、そうなのか?」


「ええ全くもって!(何度ドキドキさせられたか…)」


「…ていうか達って誰だよ」


「えっ……馨様ですが…」


「何された」




ズイッと顔を近づけてくる棗様こそ、距離感が普通と違うと思います!


私は激しく暴れる胸を押さえて、なるべく落ち着いて話した。




「…ほ、頬に手を添えられただけです」


「…………」




どうしたのだろうか。

棗様は少し眉間にしわを寄せて私を見つめる。


なんと羞恥な状態であろう。

こんなこんな至近距離でじっとり見つめられれば私の心臓はとどまることを知らず果てしなく暴れ狂いますよ。


もう音が聞こえてしまいそう。




「面白くない」


「…っむわ!」




そう言って私の両頬をむにっと左右に引っ張る棗様は、つまらなさそうに口をへの字にしていた。


あまりの展開に、私は慌てふためく。




「花は馨の行動なんて気にすんなよ」


「…は、はひ」




引っ張られて開いたままの口から空気が漏れてまともに喋れない。


なんと情けない声と顔だろう、私。



そして棗様はパッと私の頬から手を離し、再び学校の支度を始める。


…頬がすごく熱い。

むにむにと両手で頬を押さえると、そこからじんわりとした温もりを感じれた。


…やっぱり棗様のほうが距離感分かりませんよ…。