「…花?」




寝起きのかすれた声にドキリとする暇もなく(したけど)、私はぎゅっと覚悟を決めて目を閉じた。




「…待て」




何にそう言ったのか、棗様はするりと私の肩と腰から腕を引いた。

私はその隙にベッドから降りる。


くるりと振り返ると、棗様は深刻そうに顔に手を当てていた。




「……俺か?」


「…は、はい…」


「………………すまん」




両手で顔を覆うそのお姿は、とても新鮮だった。

髪の毛の間からチラリと見える耳は真っ赤だ。


それを見てぶわっと体中が熱くなる。




「こ、こちらこそ…申し訳ありませんっ」


「花は悪くない。……でもこのことは口外すんなよ」




私は必死に頷いた。

顔から手を離した棗様は、目を泳がせながらも私を見上げる。



な、なんてときめく表情をしているのか。

私まで照れてしまう。