「花ちゃんって可愛いね」
…!?
突然そんなことを言い出した馨様に、私は全身で驚いた。
何かの聞き間違いだろうか。
今この方は私になんて言いました…?
「僕の屋敷で働かない?なーんて」
クスッと笑う馨様に、私は何も言えず口をパクパクとさせる。
すると馨様はするりと私の頬に手を優しく添わせた。
私の心臓は破裂しそうなほど跳ねて、体はみるみると硬直してしまう。
お、お坊っちゃんのスキンシップの感覚が分からない…!
と、
不意に私の肩は誰かに掴まれ、グイと後ろに倒される。
固まっていた体は一瞬で解け、私はそのまま後ろによろけた。
しかしトンと背中に何かが触れて、私の体はそこで止まる。
「やめろ、花はやらん」
透き通る聞き慣れた声が頭上から聞こえ、私はハッとして見上げた。
な、棗様…!?
「あ、棗」
「あんまりうちのメイドに変な真似はするなよ」
「あれ、棗がそんなこと言うなんて珍しいね」
目の前の馨様はニヤニヤと楽しそうに笑って頭上の棗様と私を交互に見た。
私の思考回路はついていけず、ただ体は素直に体温を上げて胸はドキドキと激しさを増している。
触れたままの肩が熱い。
「…普通のことだろ」
「そう?」
なんであんなに馨様は楽しそうにしておられるのだろうか。
まあ私はそんなことを考える暇などなかったけれど。

