談話室に入ると、2人の間にはしばらく沈黙が流れた。
ソファに座るように促され、私と綾小路様はテーブルを挟んで対面する。
「……花ちゃん」
「は、はい……」
「棗くんのこと、諦めてくれない?」
どくん、と。
鈍く心臓が鳴ったのを感じた。
目の前に座る綾小路様は困ったように眉を下げて笑っていた。
「……あ……えと」
「ふふ、冗談よ。ごめんね、ちょっといじわるしちゃった」
紅茶が入ったティーカップを傾けながら、綾小路様は優しく微笑んだ。
「棗くん、やっぱり花ちゃんが好きだったんだね。私なんとなく気付いてたんだぁ。
……でも、それに気付かないフリしてたの。ていうか、棗くんには自覚して欲しくなかった」
「……」
「私ね、一年の頃から棗くんのこと好きだったの。絶対に棗くんと結婚したくって、ずーっと色々考えてた」
……え。
そうだったんですか……?
「棗くんと結婚出来るならどんな方法も厭わなかったの。だから、響子さんも利用して婚約にまで取り付けた」
悪い女でしょ?と綾小路様は切なく笑う。

