「何言ってんの?あなた正気?
メイドとして働くって……棗との婚約破棄をするつもり?」


「いえっ、そういうわけでは……」


「婚約が決まってるのにメイドなんて続けさせるわけないでしょ」




響子様の言葉に、私は何も言えなくなった。


……響子様の仰る通りですよね。

これは私のワガママですもん。



婚約を破棄したいなんて思うはずもないのですが……。

私はまだ、滝沢家の為に働きたい。


恩返しがしたい。


それが生き甲斐なのです。




「花……それでいいのか?」




真っ直ぐな棗様の眼差しが私に向けられる。



棗様を傷付けてしまうだろうか。

もしかしたらこの先のこととか棗様はもう考えてらしたかもしれない。


……やっぱりこんな望みは、自分勝手過ぎましたか。




「花ちゃんがそうしたいなら、いいんじゃないか?」




ふと。

そう仰ったのは社長だった。




「私は入籍するまでメイドでもいいと思うよ。花ちゃんも心の準備があるだろうし、メイドの仕事が出来てたらお嫁さんとしては十分じゃないかな」


「……あなたってほんと甘いわね」


「ほっほ。どうだい棗」




棗様に顔を向けられた社長。

顎に手を当てて考える仕草を見せていた棗様は、その時ふっと笑ったのだ。