「そうね、まあいいわ」
「ほっほ。花ちゃんもこっちにおいで、棗の隣に座りなさい」
「……えっ!?いえいえ、そういうわけには……」
「何言ってんの。あなたはもう棗の婚約者なのよ。これからはこっちに慣れてもらわないと」
響子様に「早く」と急かされ、私は渋々棗様の隣に座った。
……〝こっち〟か。
つまりこれからは、私がメイドとして棗様達の為に動く必要がなくなるってことだよね。
むしろ私が茜さんや有馬さんから身の回りの世話をして頂くことに……。
「……どうした?花」
心配そうに私の顔を覗き込む棗様。
私はそんな棗様を見つめ返すが、上手く言葉が出てこない。
棗様と結ばれたのは本当に嬉しい。
……でも――
「……私、メイドとして働き続けたいです」
ぽつりと。
ようやく口から出た言葉に、私もはっとした。
そう。
私はこの仕事が好きだ。
滝沢家の為に全力を尽くせるこの仕事が好きなんだ。
だから、婚約者になって……いきなりそれを辞めるなんて。
私には難しいのです。
「……え」
「ほう」
きょとんとする棗様と、興味深そうに顎をさする社長。
響子様も理解し難いとでも言いたそうな表情をされていた。

