そして遂に、廊下の角から息を切らした棗様が現れた。
私を見つけた棗様はそのままこちらに向かって歩いて来る。
大丈夫、大丈夫、大丈夫っ……。
ああでも、駄目だ。
既に泣きそうだ。
迫ってきた棗様を前にして、私は思わずぎゅっと目をつぶった。
「俺は花が好きだ」
頭上から聞こえたそんな声。
……それは正しくも、棗様の声に間違いない。
「…………え?」
私はゆっくり目を開けて棗様を見上げる。
棗様は涼し気に微笑んで私を見下ろしていた。
今のは……一体……?
「嘘じゃないぞ。俺は心の底から花が好きだ。もちろん、恋愛的な意味でだ」
「……え、でも……綾小路様は……!?」
「さっき母さんと一緒に婚約の件を丁重に断ってきた。俺は綾小路とは結婚しない」
真っ直ぐ私を見つめて離さない棗様。
私は頭の中がパニックでいまいち状況判断ができなかった。
〝俺は花が好きだ〟
……信じられない。
でも……
〝嘘じゃないぞ〟
嘘でもない。
あの棗様が……
私のことを好き……?

