「……いいえ。きっと、諦められないと思います……」


「……」




後ろからは棗様の表情が分からない。


棗様が今何を考えてらっしゃるのか、気になって仕方がない。

怖くて手が震えそうだ。




「そうか」




静かにそう言った棗様は、遂に私を振り返る。


その表情は――





「すまないが、諦めてもらう。俺も譲れない」





すっきりしたような、晴れやかな表情だった。



……そ、そんな……。

そう言われると……私は諦めるしかなくなります。


つまり、棗様は私の気持ちには〝応えられない〟ってことですよね。



でも、なんで棗様はそんな表情してるんだろう。


なんかその意図がよく分からなくてなんとなく振られたっていう実感が湧かない……。




「花、今日のレッスンは全てキャンセルだ」


「はい……って、え!?」


「それと、母さんを呼んでくれ」


「……響子様?」


「綾小路邸に行く」




え……。


呆然と立ち尽くす私とは反対に、棗様はご自分で着々と出掛ける準備を進めていく。



レッスンを全てキャンセルして……、

響子様と綾小路家へ?



一体どうしたんでしょうか。

そんな突然……。



私は訳も分からないまま、棗様の言われた通りに動き出した。