* * *
「――おい」
「ひゃっ」
俺が声を掛けると、小さな肩はビクッと跳ねた。
恐る恐る振り返った少女は俺を見上げて目を見開く。
「あ、あの……えっと……」
「迷子か」
「……」
俺がそう言うと、少女は黙って頷いた。
制服を着ているし、きっと前川さんが言っていた通い込みで来ている女子高生だろう。
大方、屋敷内を見学する為に歩いて回っていたが広過ぎて自分の現在地を把握出来なくなったのだろう。
俺も最初は苦労した。
「どこに行きたい」
「……え?」
「俺はここで執事をしている。案内くらいする」
俺の言葉を聞くと、不安そうに眉を垂れさせていた少女の顔はみるみる明るくなっていった。
「い、いいんですかぁ!?」
「構わない」
「わあっ……!ありがとうございますっ!」
初対面の俺にこれでもかってくらいの人懐っこい満面の笑みを向けてきた。
一瞬彼女の周りに花の幻覚が見えた気がした。
俺は思わずじっと彼女を見つめてしまう。

