『はい、もしも──』
「千果ちゃん、桜田くんはまだ学校にいる⁈」
『え、なに。桜田?
今にも帰りそうだけど?』
なにもわからない様子の千果ちゃん。
悪いけど、なんの説明もされず困っている彼女を気遣う余裕はない。
一年前にわたしも似たようなことをされたから、お互い様だよね。
「足止めしてて!
……今から行くから」
一方的にプツリと電話を切った。
ふと、着替えるのにも走るのにも向いていなかった膝下丈のセーラー服がまとわりついたような気がした。
だけど今、わたしが着ているのは白いシャツに短い黒のボックススカート。
赤いスカーフじゃなくて水色の紐リボンだし、もう髪もふたつ結びじゃない。
……昔とは違う。
違っていることがたくさんあるけど。
本当は、わたしが会おうと思えば桜田くんと会うことはできたの。
中学が同じだから、そこまで家も遠くない。
高校だってお互い私立じゃないんだから会いに行ける距離。
なのに、わたしは怯えて、逃げていた。
だけど、わたしはもう──君に会いに行けるよ。

