「……桜、全部散ったな」



ポツリ、と零された呟き。

それに過剰に反応してしまうのはどうして?



耳をそばだてていたわけでないのに、やけに大きく聞こえた。



川崎くんの言う通り、目の前に広がるのは、完全に葉桜。

木のそばには少し薄汚れた、まるで桜色のカーペットのような花びら。



もうあの溢れかえるほどの桜の色と香りはない。



桜の季節は、終わったんだ。



その事実がさみしくて、恐くて……。

あんなにわたしを苦しくさせた桜が散ったことによる喪失感から、川崎くんがいるのにどうしようもなく心が震える。



そんな自分を誤魔化そうとすると、無意識に眉間に皺が寄って、眉が下がる。



そして、わたしは声もなくただひとつ、コクンと小さく頷いた。