異世界で家庭菜園やってみた

「き、貴様……」

 あの時の恐怖が甦ったのか、国王は蒼白になっている。

 宰相が腰の剣を抜き、国王を守るように立ちはだかった。

「控えられよ、アシュラムどの」

「うるさい」

 彼の声とも思えない地を這うような低い声。

 悠里の背筋に悪寒が走る。

「アシュラム、待て」

 ウリエルが肩を掴んだ。

「うるさいと言っている!」

 バンと弾かれ、ウリエルが横に飛んだ。

 もんどりうって石の床に倒れ込む。

「ウリエルさん!」
「ユーリ」

 低い声に呼ばれ、ウリエルの元に走り寄ろうとしていた足が止まった。

「君は、私といてくれるね」

 恐る恐る振り向くと、アシュラムが笑っていた。

 悲しみをたたえた微笑み。

 凄絶なまでの悲哀しか感じ取れない微笑みを彼は浮かべていた。

「アシュラムさん……」

「無駄だったよ。やはり無駄だった」

 こくりと喉を鳴らした悠里は、ここで間違えてはいけないと気を引き締めた。

「約束したでしょう、アシュラムさん。一緒に畑をするって。この国を野菜でいっぱいにするって」

 すると彼の笑みが深まった。

「ああ、そうだね。君だけだ。僕と共にいてくれるのは。ならばいっそのこと、どこか遠くへ行ってしまおうか」
「え?」

 アシュラムの短くなった白銀の髪がざわめいた。

「ユー……リ……。逃げろ……」

 苦しそうな息の中で、ウリエルが呟いた。

「本当にうるさいな、君は」

 アシュラムがウリエルに向かって腕を振る。

 その寸前、悠里がアシュラムの腕に飛び付いた。

「だめ!アシュラムさん、これ以上はだめだよ!」

 ふっと彼の力が抜けた。

 と同時に抱きしめられた。

「行こう、ユーリ」

 アシュラムに抱きしめられたまま、淡い月光色の光に包まれた。

「あ……」

 トーサ村にアシュラムが現れた時の光だ。

「だめ、アシュラムさん!」

「君と一緒なら、僕はどこでもいいんだ」

 ぶつぶつとアシュラムが口の中で何かの呪文を唱えている。

 月光色の光がいっそう強まった。

 目の端に、ウリエルが立ち上がったのが見えた。

「ウリエルさん!」

 呼んだ瞬間、アシュラムが高らかに唱える。

「転移魔法発動!」

 瞬く間に、月光が二人を飲み込む。

 何か強い衝撃を受け、悠里は意識を手放した……。