「…アジサイが虫にイジメられる?」
祐輝が尋ねる。
紗波は小さく首を縦に振り、再び鉛筆を動かしながら話す。
「虫の中にも…アジサイを蝕む虫だって居る…葉を食べたり、花を汚したり…イジメる虫もいる…」
紗波がチラ、と前を向いて、白い薔薇とノートの白紙を見比べた。
「本来なら上手くアジサイと付き合えるのに…自分勝手な都合で…アジサイをイジメる虫だっている…」
無機質な声で、紗波は祐輝にその答えを問いかける。
「…それでも…アジサイは幸せ?」
祐輝が黙り込み、下を向くと、茶色い土が見えた。
紗波はジッと、祐輝の答えを待つ。
(イジメられていても…アジサイは幸せか?)
祐輝が頭の中で、紗波の言葉を何度も繰り返しては、その答えを探した。
小百合と亮斗は、二人で何かを明るく話している。
(イジメられていても…幸せか不幸か)
祐輝が腕を組み、考える素振りを見せる。
紗波は黙って薔薇を描く。
どんよりと曇る、鬱陶しい空だ。
やがて祐輝は答えを出し、組んでいた腕を元に戻して言った。
「…友達が居るんなら、幸せじゃねえかな?」
噴水の水が跳ねる音__ピチャピチャという音が聞こえる。



