「確かに、アジサイの命は金で買われた。それは屈辱だと思う。実際、俺の命を金で買われたら、すっげえ悔しいしな」
祐輝が、ははっ、と笑った。
紗波は感情の無い瞳を、祐輝に向け、話に耳を傾けている。
「…でも、中庭に来たから、こそ。…生きる事が出来たんだろ?買われなきゃ枯れるとしたら?って久岡が言ったじゃん」
な?と笑いかけるが、紗波はその祐輝の笑顔を見つめるばかりで、笑い返すような事はしない。
梅雨くさい風が中庭を通る。
「アジサイにとっちゃ、不幸かもしれない。生きられる代わりに、誇りを失うんだから。でも」
紗波が目を伏せてから、鉛筆を握り直して、絵を描くのが見えた。
祐輝が瞼を閉じ、話を続ける。
「もしも、種が出来たとしたら?種の命は、買われたとは言われない。元々ここに生きてるんだから。不幸なのは__少しの間だけ。後には幸せが待ってる」
そう言って、祐輝はヤンキーとは思えない程、爽やかに笑った。
紗波は鉛筆を止め、祐輝に問うた。
「…なら」
祐輝が紗波の方に顔を向ける。
「アジサイが、虫にイジメられていたとしても…幸せ?」
紗波は祐輝の隣に咲くアジサイを見つめた。



