君色キャンバス




「小説はまず、絵とは全く違う気がする。だって、小説は自分の世界観を相手に伝えるんだろ?テーマが『春』だとすると、天道虫が飛んでる、とかな」



祐輝が突っ伏したまま、普段なら会話に出そうも無い話題を出した。



紗波は返事をしないが、聞いてはいるらしく、所々で瑠璃色の色鉛筆が止まる。



「音楽も、絵とはちょっと違う。これを見て、自分はこう表現する…春、って聞いて、風の音を浮かべたり。聴覚に訴えてくる物だから、視覚に映る物__草とかを形で表現しても意味 ねえし」



突っ伏して、窓の外を見ながら、次々と言葉を紡いでいった。



窓から、生暖かく時たま涼しい風が、ふぅ、と吹いてくる。



「絵は、これを見て、何を思う?…それを見る奴に、問いかける物だと思う。お前は__この桜に、どんな世界観を持つ?ってな。この絵を見て、どう解釈するかってのを__」



そこまで言って、祐輝がバッと背筋を伸ばして顔を赤くした。



(わ、俺なに言ってんだよ!?完璧な馬鹿だろ!)



言った事を思い返せば、意味の解らない言葉を並べていった気がする。



紗波は変わらず、アジサイを描きながら祐輝の話を、一応は聞いているようだ。



「わ、やっぱ今の無し__には出来ねえよな!うん、解ってる!あくまで俺の意見だからな!?本気にす__」



「…絵は」



祐輝が言葉を止めた。



紗波が色鉛筆を動かしながら、目の前のアジサイを見ている。