君色キャンバス




何気無しに、紗波が絵を描いている間、携帯を弄る。



『アジサイの花言葉』と、検索してみると、次々と画面に現れる青い文字。



『花言葉辞典』という所に触れ、画面が開くのを待った。



アジサイには、沢山の花言葉があるようだ。



移り気、高慢、辛抱強い愛情、元気な女性、あなたは美しいが冷淡だ、無情、浮気、自慢家、変節、あなたは冷たい。



合わせて十個の花言葉が、アジサイに込められていた。



(…無情、冷淡、冷たい…)



笑い出しそうになって、祐輝は右手で口を塞ぐと、紗波の方を見た。



こちらを気にする様子は、微塵もない。



(…久岡そっくり)



生けられたアジサイと、それを描く紗波を代わる代わる眺めた。



アジサイは静かに冷淡に、祐輝を見返す。



紗波は無情に、絵とアジサイに目を向けている。



見れば見るほど、祐輝にはアジサイと紗波が重なるのを感じた。



紺色のセーラー服が、瑠璃色に見える。



祐輝はそこまで考えると、画面に視線を戻した。



見れば、さっきの十個は西洋の花言葉だとか、日本では『仲良し』『友達』などの意味で使われる事が多い、などと書かれている。



画面の上にある時刻表時に目を移せば、八時半だった。



携帯をポケットに仕舞うと、祐輝は机に突っ伏した。



「絵、ってさ、小説とか音楽とかとは、なんか違ってるよな」



紗波は答えず、黙々と絵を描いている。



祐輝は独り言でも言ってるかのように、呟き続ける。