「…そう」
久しぶりに会ったというのに、紗波の返事はそっけない。
以前、祐輝と隠れた机から椅子を引くと、そこに座って落書き帳と色鉛筆を、机の上に置いた。
紗波の隣で、椅子を引く音がした。
「何を描くんだ?これ?」
興味深そうに、落書き帳を覗きながら、祐輝が机の上に置かれた、瑠璃色のアジサイを指差した。
透明な花瓶に入った水は透き通っており、アジサイは幾つもの、質素な花を咲かせている。
「…うん…アジサイ」
「俺、見たぜ。これ摘んだの、久岡だろ?三階から見えてた」
祐輝が、照れ臭そうに頭を掻いた。
アジサイを摘んだのは、紗波。
中庭から、そっと一房を摘み取り、水を汲んだ花瓶に生けた。
「…うん」
紗波はそれ以上 言葉を放つ事はなく、一心に瑠璃色の色鉛筆を動かした。
光に当たって輝く、瑠璃色のアジサイ。
絵の中のアジサイは輝かない。



