「ちょっと!紗波は!?」
「久岡なら中に居るっての。ヒステリー野郎が」
「五月蝿い!」
小百合が祐輝を押し退けて、美術室の中に入る。
目に止まるのは、暗幕に包まって寝息をたてる紗波だ。
「…流岡」
「あ?なんだよ」
「犯してないでしょーねぇ!!!」
般若と言うべき表情で、小百合が祐輝を睨んだ。
「んなことする訳ねえだろ!?」
すると、自分の前での騒ぎに気づいたのか、紗波が薄っすらと目を開いた。
その焦点の定まらない目に、祐輝の胸はまた、高まった。
(…っ、なんだよ)
胸を抑えると、鼓動が大きく波打つのを感じる。
この気持ちはなんなのか。
「さっ、紗波!こいつに何かされてないよね!?」
真っ青な小百合の顔を見てから、扉に寄りかかっている祐輝を交互に見た。
そして、その問いに答える。
「…されて、ない」
ホッと小百合が胸を撫で下ろして、また祐輝を凝視した。
「なんだ、良かったぁ…」
「んだよ。完全な濡れ衣じゃねえか。名誉毀損で訴えるぞてめえ」
祐輝がいつもとは百八十度も違う、ドスの効いた声で小百合に言った。
小百合は般若の表情のまま、
「勝手に訴えれば?」
と、どちらかといえば冷静な声で言い放つ。
「…チッ、胸くそ悪りぃ…」
祐輝は扉を八つ当たり気味に開けると、ドスドスと音を立てて出て行った。
小百合が、
「やっと行ったか…」
とため息をついている。