「先生ですか…!祐輝の容体は…!」



「…君は友達かね?」



手術医が汗を拭きながら、慌てたような口調で言う。



ポタリと、汗が白い床に落ちた。



亮人は、視界の端に映った赤いモノに視線を向け__薄緑の手術着についた、真っ赤な血を見た。



「…親友です!先生、祐輝は…無事…ですか…!」



赤い血に目がくらみそうになりながら、亮人は藁をも掴む気持ちで伝えた。



手術医は、ダラダラと垂れる汗を拭きつつ、赤い血に目をくれず、言った。



「…刺し傷自体は、右脇腹のため、命に別状はない」



(…え?)



命に別状はない__たった七文字の言葉が光る。



__目尻が熱くなってくる。



「え、て事は祐輝は…」



頬を伝って行く何かを止める事もせず、手術医にすがるように言う。



手術医はその手を、振り払った。



「今はそんな事をしている暇はないんだ…!それより、彼の家族は居らんかね!」



「…え?家族…ですか?」



深く眉間にシワのよった、深刻な表情に、亮人は湧き上がってくる不安を隠せない。



「あの…祐輝の家族…父親と母親は今、仕事で海外に…さっき僕が連絡を入れましたが」



こみ上げてくる涙を拭い、亮人はその手術医に言った。



安堵の涙と共に、渦巻く不安に冷や汗が背中を流れる。



「…そうか。君が彼の父親や母親に言ってくれないか。伝えるのが無理なら、私に変わってくれればいい」



一大事なんだ、と言う手術医の言葉に、生唾を飲み込み__亮人は聞く。



「…っ、なんですか」



亮人は、白い壁、白い床、全てが白に統一されている事が、こんなにも不安に感じた事はなかった。



手術医は、重々しく__口を開いた。



「伝えてくれんか。彼は__」



天国に悪魔が舞い降り、祐輝を連れ去ろうとしているような言葉だった。





「…彼は、『再生不良性貧血』という病に蝕まれている。重症で、今すぐ手術をしなければ、危ない、と__」