君色キャンバス




(…祐輝、何があった?久岡から聞いたとは言え、俺がその場に居たわけじゃない…)



『手術中』と書かれた文字の下から、青い電気が床を照らす。



(しかも、いきなり咳き込んで血を吐いたって…いったい、何が…)



何度も手を組み直し、落ち着きを求めて左右を見る。



焦げ茶色の亮人の髪が揺れた。



あの騒動から五時間、昼の一時半になっても音沙汰のないこの状況。



亮人も、やっと、冷静になってきた。



髪から血の滴る紗波が、階段から駆け下りてくる前から、嫌な予感はしていた。



終了式が終わり、美術室に行こうとする小百合を少し引き止めたのも、その胸騒ぎからだった。



『なぁ、河下…ちょっと良いか?』



『え?なに?』



『…なんか嫌な予感がするんだ。美術室に行くんなら、俺もついていくけど、良いか?』



ちょっとした不安でしかなかったが、漠然とした悪い予感があった。



それは当たっていた。



(…祐輝…助かれよ…)



声、言葉にこそ出さないモノの、心の中で親友の無事を祈る。



白の中の残像に、紗波の髪についた血が浮かび上がってくる。



(久岡のために、助かりやがれ…!)



そう願った刹那、手術室の扉が、ゆっくりと開いた。



亮人は足早に、中から出てきた、薄い黄緑色の服を着た男性に歩み寄った。