「…っ…いてえな、あいつ…ゲホッ!」
祐輝が虚ろな目で紗波を見て、明るく和やかに、微笑む__
深緋色の血が視界から消えない。
「流岡…。流岡…!」
顔からさっと血の気が引いて行く感覚がした、と同時に__澄んだ声が聞こえる。
『紗波は何もできないのね。まるで、人形みたい__』
ガクガクと痙攣し始める身体、何もできない自分に問う。
(私はなに…!?なんで流岡が…血を…傷ついているのに、何もできない…!?なら…教えて…教えてよ…どうしたら良いの…!?教えてよ、誰か…!)
皮肉のような小鳥のさえずりが、廊下に木霊したように感じる。
(…っ、流岡…!どうしたら…!?)
祐輝がそっと、血まみれの右手を伸ばし__紗波の黒く長い髪に触れた。
そして、何かを言いかける。
「…俺は__」
消えていく声、がくりと床についた血まみれの右手を見る。
髪から滴る血に紗波は__立ち上がった。
廊下を駆けて、ただひたすら、祐輝が助かる事を願いながら、叫ぶ。
「…誰か…っ!…誰か!」
階段を駆け下りたそこには、図ったように、何かを話しながら廊下を歩く、亮人と小百合が居た__



