「…は?おま、挑発してんのか?女だからって容赦しねえからな?俺達は」
紗波が小さく、囁いた。
「…また、俺達」
カッとしたように、不良達がざわつき始めた。
男がナイフを持った男子に言う。
「なんだてめえ、本気でぶっ殺されてえか!?」
少しも動揺せず、泳がない紗波の黒曜石のような鋭い瞳に、半ば不良達は恐ろしげに言う。
「…やれば」
「あ!?うっせえんだよ、女のくせに!」
リーダー格の男子の理性が切れたのか、その男子は大きく叫んだ。
「原島ぁ!こいつ刺しちまえ!」
原島、と呼ばれた、ナイフを持った男子が目に見えるようにうろたえ始めた。
「え、お、俺が…!?」
「当たり前だろうが!」
祐輝が身体中を襲う痛みを堪えて、紗波の手を引っ張った__バランスが失われ、ふらついて、座り込み、地面に手をつく。
「さっさと…」
紗波に向かって、ナイフを構え、走っていく原島__紗波は目をつぶる。
「やめろ…!」
目をつぶる直前に紗波の目の前に出てきた黒い人影。
金属と肌がぶつかったような音__地面についた手に暖かいモノがかかった。
目をつぶっていても手についた液体の感触に身体が震え始める。
「…え…!?こいつ本気で刺しやがった!逃げるぞ!」
その声に紗波はゆっくりと目を開ける。
開いた瞬間に目に入ったのは、抜けるような青空と、信じられないような景色__鮮明な赤い血だった。



