「ゲホッ…!…ぅ…!」
紗波の声も届かず、祐輝の『上下関係』に反した事への制裁は止まらない。
不良達が小気味良さそうに大声で笑いながら、つま先で、地面に横たわる祐輝の身体を蹴る。
終業式中、校舎を歩いている人影は見えなかった。
祐輝は一度もやり返さず、ひたすら先輩からの暴力に堪えている。
紗波は見るに見られず、叫んだ。
「…っ、やめて…!」
赤い血が四方の床につく。
鮮烈な赤、吐血が、美術室の前の廊下を汚していく。
目の前で行われている制裁が怖い。
鮮明な赤い血が怖い、不良達が怖い。
「やめてっ…!」
「いい気味だな、今のうちに礼儀ってもんを叩き込んでやるよ!」
不良達の中には、キラリと光に妖しく輝く、尖ったモノ__ナイフのようなモノを持つ男子も居た。
「やめて…」
祐輝の身体から力が抜けていく。
紗波は、無意識のうちに、ナイフや血に恐怖を持ちながら__叫んでいた。
「やめてっ!」
不良達の動きがピタリと止まる。
__紗波は反射的に、美術室から飛び出すと、祐輝の前に立ちはだかった。
鋭い黒曜石のような瞳で、リーダー格の男子を睨みつける。
「…これ以上…流岡を傷つけないで!」
ふっと口から漏れた言葉。
混乱し、荒波に飲み込まれる心の中で、ふっと思った事。
頭や身体から血が出ている祐輝を見下ろすと、薄っすらと目を開けて、驚いたように紗波を見上げていた。
リーダー格の男子が、紗波を睨み返す。



