君色キャンバス




もう一度、桜色を消し、ゆっくりと鉛筆を滑らせながら思い返す。



夜の群青色に塗りつぶされた美術室で、警備員から隠れながら、眠った事。



祐輝の寝顔を描いた事が記憶の隅から溢れ、紗波は立ち上がると、そっと奥の、あまり本の置かれていない本棚に歩み寄った。



かかとを浮かせ、手を伸ばす__手が当たる。



ゆっくりとその群青色のモノを下ろし、見つめた。



群青色の美術室、月の光に照らされて眠る祐輝の描かれたキャンバスが、薄く塵をかぶり、置かれていた。



それをパイプ椅子に立てかける。



テーブルの前の椅子に座ると、桜色の鉛筆を踊らせる。



消しゴムを持つと、ギュッと力を込めて桜色を消す。



「…っ…」



消しながら、考えた。



(…私は、どうして…)



不意に手が止まる。



窓の外に広がる、校舎に切り取られた青空を見上げて、緩やかに流れ行く雲に__紗波は問うた。



「…どうして、私は、流岡の笑顔を描きたいの…?」



時は雲のように過ぎ去っていく。



たくさんの事が思い出される。