十一月の終わり頃、紗波は初めて、祐輝に恐怖を抱いたのを思い出す。



血まみれの手に身体が拒否し、祐輝を拒んだ事。



その時の祐輝の悲しげな表情が浮かび上がり、キュッと胸が締め付けられた。



そして__何度もチラチラと、扉の方を見ている自分に気づく。



いつもとは違い、鍵はかけておらず、入ろうと思えば簡単に入る事ができた。



(…胸が痛い…?)



鋭い針で突き刺されたような痛みに、紗波は眉をしかめる。



こんな痛みは感じた事もなく、うろたえる。



何度も何度も、扉を盗み見ては、ため息をつく。



なんのため息かも知らず、紗波は中庭に視線を移してから__立ち上がり、タンスに近寄ると、下から二段めの引き出しを開けた。



ノートを取り、カンカン箱に入れられた色鉛筆を出す。



椅子に座ると、テーブルの上にノートとカンカン箱を置いた。



美術室を見回し__呟いた。



「…何を描こう?」



青空に輝き、さんさんと地上に光りを注ぎこむ太陽に目をつぶる。



「…光りを描こうか」



次に、大空に力強く羽ばたく小鳥を見つけ、青い翼を見つめる。



「…翼を描こうか」



白紙を見つけようと、ノートのページをめくる。



ふっと紗波の手が止まった。



あくるページに描かれていたのは、春に中庭で紗波が描いた__無表情の祐輝。