小阪が蒼白い顔で、下手な作り笑いを浮かべ、言い放った。
「そいつ等はきっと気が狂ってるんです。俺は知りません」
「…ざけんなよ」
祐輝が立ち上がるのを、片宮は咎めた。
「そうカッとされても、困ります。証拠がないんですから…。どうしたものか…」
しばしの沈黙が流れた。
穏やかでゆったりとした曲が、応接室の隅から隅まで、小さく響き渡る。
「…では、紗波さん…絵を描いてくれませんか」
片宮が立ち上がりながら__そう言った。
紗波の身体がビクリと波打ち、両手に力を込め、赤い絨毯の長い毛を凝視する。
小阪も、ブルブルと震えている。
(…絵…?)
「この世界は、全てが絵で決まるんです」
片宮は懐から携帯電話を取り出し、0号のキャンバスを二枚用意、と呟いた。
小阪がそれに反応する。
「え、二枚って…俺もか!?」
「もちろんです。あと、画材と…」
さも当然、というような素振りを見せてから、片宮は優雅に携帯電話を折り畳んだ。
「もうすぐこの部屋にキャンバスが届きます。紗波さんと小阪先生に描いてもらうのは『冬』です。だから、そこの君と私は別の部屋で談笑でもしてましょう」
「え、俺は…」
祐輝がおもむろにソファから立ち上がり、チラリと不安げに紗波を見る。
「早く来て下さい。こっちの部屋です。もうすぐキャンバスが届きますので。画材も」
祐輝は、紗波を見つつ、片宮のあとに着いていく。
静かな応接室に残ったのは、紗波と久岡 踉だけだ__



