「娘さんと言うだけならまだ良いです。小阪先生が否定しているのは納得いきませんが。…この絵が小阪先生の絵でないとしたら…大問題です」
ザワザワと建物内は話し声で埋め尽くされていくのを見た片宮は、場所を変えるように言った。
「…ここじゃまずい。こちらの部屋へ来て下さい。お客様は気にせずに…」
身体が震え、紗波は足を動かす事もできず、ただジッと小阪の泳ぐ瞳を見つめた。
「…久岡…頑張ったな。俺もフォローするから」
祐輝が白い右手を差し伸べた。
__その手に救いを求め、紗波は左手で祐輝の手に触れた。
力が抜け、足が動く。
小阪は半ば片宮に引きずられるように、紗波と共に歩いて行く。
着いたのは、黒いソファが置かれた応接室だった。
「…座って下さい。何か飲みますか」
片宮の気遣いを断る。
間に透明なガラスのテーブルを挟んだ黒いソファには、片宮と小阪、祐輝と紗波で別れて座った。
ガラスのテーブルの上には、小阪が持っていたワイングラスが置かれている。
若紫色の液体の水面が細かにさざなむ。
「…この展覧会の絵が、久岡 紗波さん?の絵である証明はできますか」
紗波はフルフルと首を振った。
うーん、と片宮が唸る。



