君色キャンバス










(んー…恋なんか知らねえわ。考えた事もねえよ)



窓際の席で、右手でシャープペンシルをくるくると回しながら、黒板に書かれた文字を睨む。



スペルが羅列し、その中の一文を英語教師が指し示した。



「この文を和訳すると?松島」



自分の名前が呼ばれ、亮人が、俺かよ、と小声で呟いて立ち上がった。



スペルを頭の中で日本語に和訳する。



「…マイケルはローズに恋をしている」



「正解」



亮人は、椅子に座るや否や、笑い出しそうになる口を押さえた。



(…あっぶね、噴き出す所だった…考えてる事が同じとか、あり得ねー。絶対 笑われる)



シャープペンシルを持つと、無意識のうちにペンを回す。



悶々とした思考の中で、紗波に問われた
“恋”を考えた。



(恋…知らねえなー…)



何本もの線が入ったノートを開き、英語教師の言葉を流して、授業とは関係ないページを開いた。



恋、とやや右肩上がりな字で、真ん中に書く。



フッと何かを思い出したかのように顔を赤らめ、ノートの端に小さく薄く、『河下』と書いた。



消しゴムを持ち、その文字を力を込めて擦る。



亮人は、ノートを敷いた机に突っ伏し、うめき声とも言えない声を出した。



「…っ…!」



そして一つため息を吐くと、文字の跡がついた箇所を見てから、また、シャープペンシルを回した。