午後、四時二十分頃。
コンッ、コンッ、と昨日のように扉がノックされる。
紗波はテーブルの上に開けたノートから顔を上げた。
「紗波、帰ろ!金曜なんだし」
ノートを閉じて右手に持ち、鉛筆をテーブルの上に置くと、扉に歩み寄って鍵を開ける。
扉の前では、小百合が微笑んでいた。
__しかし、紗波を見た途端、急に小百合の表情が険しくなる。
「…あれ?紗波、ほっぺ赤いよ?どうした…の…?」
紗波が、赤くなった左頬を隠す事もなく、臆面も無く言った。
「…別に、なんでも、ない」
小百合が、不審がるように紗波の顔を覗き込む。
「…大丈夫?もしかして、なにかされたの?」
フルフルと首を振ると、小百合はそれ以上は踏み込まず、一言だけ言った。
「…せめて、手当はしないと…。腫れるよ?」
「…別に良い」
紗波は、小百合の左手に持たれている生徒鞄を持つと、美術室に目を向けた。
小百合も、美術室を覗き見て、部屋の真ん中に置かれた“輝く太陽”を凝視した。
「…あの絵、紗波が描いたの?」
キャンバスに目を留めたまま、紗波はコクンと頷く。
しばらく、そのキャンバスに描かれた太陽を見たあと、小百合は言った。