左頬に鋭い衝撃を受け、光が黙り込む。
「…自惚れもいい加減にしろよ」
時間が経つにつれて、ジリジリと焼けるように、頬に熱を感じた。
数秒 沈黙の中で考え込み、父にぶたれた事を理解する。
「…出てく」
居心地の悪い、苦い沈黙を、悲しい声で破る。
「待ちなさい、光」
「出てく!」
母の声を弾き、財布を手に持って、玄関まで走って行く。
すっと靴を踏み、ガチャリと扉を開けると、雨の混じった風が吹いてきた。
「お姉ちゃん、風邪をひ…」
「うるさい!」
灯の声を跳ね除け、バッと外へ飛び出すと、身体に当たる冷たい雨。
さっきよりも勢いを強め、容赦無く身体に打ち付けた。
濡れた自転車のサドルに座り、制服のスカートが濡れるのを構わず、漕ぎ出す。
髪の毛に、雨水が伝う。
前輪の黒いタイヤは、水たまりを踏みつけて行く。
激しい雨の降る、闇の道を進む。
商店街に出ると、この日を過ごす場所を探した。
『漫画喫茶 鉄紺』と書かれた看板に目を止め、自転車を駐輪場に置き、濡れた手で扉を押す。
暖かい空気が身体を慰める。
「…えーと、お年は幾つですか?」
店員らしい人が、光の制服という風貌を見て、問うた。
「…高二です」
店員も深く突っ込まず、そうですか、と頷いて代金を要求した。
「何時間でしょう?」
「…十二時間で」
チラリと、店の壁にかけられた、短針が八を指す時計を見てから答える。



