君色キャンバス




母が、光に向ける瞳は冷たい。



「…別に?しょうもない所を間違えて。次は頑張りなさい。それより…」



母が、灯の方をみて、とても優しいような誇らしい笑顔を浮かべた。



「灯は学年一位の、満点?凄いわね、お姉ちゃんよりも優秀じゃない。これからも頑張りなさいよ?」



「うん」



そう言って、灯は心底 嬉しそうに笑う。



(…うっとおしい)



灯に、疎ましいという視線を向けながら、階段を上がる。



また、リビングには、楽しそうな笑い声が溢れた。



音を立てて扉を閉め、部屋に入ると、机の上に裏返して置かれた小説に手をつける。



ベッドに寝転び、しおりを挟んだページを開いた。



その小説の主人公は、友達に囲まれ、優しい両親に育てられていた。



__読み終わると、ポン、とその辺に小説を放り投げる。



当たり前の人間に囲まれ、笑顔でいる主人公が憎らしかった。



ちょうどその時、下から声が聞こえた。



「お姉ちゃーん!ご飯だよー!」



灯の愛らしい声に、一言、解ったと叫んでから起き上がる。



下では、母と灯と父が、カレーを先に食べていた。



「光も早く食べなさい」



黙って椅子を引き、座って、カレーを口に運ぶ。



ポケットに入れていたケータイに少し違和感を感じるが、気にする事もしなかった。