フルフルと手が動き、今にも絵を塗りつぶしそうになる。
唐突に、手が暖かくなっていくのを感じ、紗波は隣を向いた。
「紗波…良かったね」
優しげな、白百合のような微笑みを浮かべ、紗波の手を握っていた小百合。
身体から、力が、抜けていく。
「…」
「…なんで泣いてるの?」
小百合の頬を、一筋の涙が伝っていくのを不審に思う。
「…ううん、なんでもない」
そう言った小百合の表情は、とても幸せそうに見えた。
降り注いでいた小雨が止んだ。
「…じゃ、帰るね」
小百合が立ち上がり、美術室から出て行くと、紗波一人になった。
空は曇り空のままで、こくこくと時間は流れていき、やがて夜になる。
警備員を、暗幕の中で眺めながらやり過ごす。
紗波によって端に移動させられたキャンバスの中には。
ほんの一欠片の、紗波の優しさが見て取れた。
__朝。
一つの足音が、美術室に向かう。
その人物は、ジッと虚空を凝視しながら、唇を噛み締めていた。



