ピンポーン、と、小百合が自分の家のチャイムを鳴らした。
インターホンから飛び出す声。
「どなた〜?」
「小百合だよ、開けて。あと、今日は紗波が泊まるから」
「私は泊まら…」
紗波が言い終わらないうちに、小百合がその手を掴んで、家に引っ張り込んだ。
「良いの!美術室で寝るのは駄目!」
「…でも」
「あら、お久しぶり、紗波ちゃん」
親子共に良く似た、小百合の母親が紗波に親しげに声をかける。
「お久しぶりです」
それ以上は言わない。
必要以上は、喋らない。
小百合の母は少し微笑んだだけで、リビングに入っていく。
小百合と紗波は二階に上がった。
紗波が、床に座り込む。
「せめて、夜まで居なよ。お菓子 持ってくるね」
「別にいらない」
「私はいるの」
カチャ、と戸を開けて、小百合が部屋から出て行った。
パステルカラーのピンクで統一された部屋は、とても女の子らしい。
ベッドのカバーも、カーテンも、全てがピンク色。
紗波は、ピンク色の天井を見る。
そして、五限目の事を思い出した。
笑顔が、描けなかった事を。



