君色キャンバス







「…久岡、起きろよ」



その声につられて目を開けると、辺りに暗闇が広がっていた。



目が慣れていくと見えるのは、二枚目でも醜くもない、祐輝の顔だった。



「ん…」



少し声を漏らし、紗波は起き上がると、周りを見回した。



耳に、ザー…という音が聞こえ、自分が今、どこに居るのかを思い出す。



柔らかな砂の上、深い眠りについていたようだ。



「…起こしてごめんな。帰ろうぜ」



空を見上げれば、月が上がっていて、夜だという事が伺える。



月明かりに照らされた海は、まるで紗波の心を塗りつぶした__闇色のようだ。



紗波がビクリと震える。



「…怖い」



「え?」



「怖い…怖い…」



「久岡?おい、大丈夫__」



身体の震えが、“あの時”を思い出した時のように、激しくなる。



この恐怖は、“あの時”の恐怖と、光にイジメられた時の恐怖によく似ていた。



『紗波!いい加減にしなさい!
 殴られたいの!?』



『天才って良いよね。アタシ、本当に憧れるなあ。ね、天才ちゃん!』



海が、自分に襲いかかってきそうな気さえする。



「怖い、怖い、怖い!!」



ザーと、海は紗波を畏怖させる。



恐怖という感覚が、紗波の中に広がっていく。



「久岡!!」



「嫌だ…嫌だ…怖い、怖い…!!」



不意に、恐怖が心から消えた。



波が引くように、紗波の心から闇色が消えていく。



暖かな温もりを感じる。



「久岡…落ち着け」



__暖かな温もり。



紗波の恐怖心は、祐輝に抱き締められた瞬間、消えた。



優しい安心感が、紗波を包み込んだ。