「その事でお母さんとお父さんは離婚してね。紗波はお父さんに引き取られた。今のお父さんも、その人。私は会ったことないけど」
小百合が暗い声で、独り言のように語っていくのを、一心に聞く祐輝。
耳にしたシルバーのピアスが、キラッと光った。
「最初はまだ良かった。感情は消えたけど、自分の事はちゃんと考えてたから。…でも、お父さんと暮らすようになって…自分の事にも、興味を持たなくなった」
「それって、おい、もしかして…!」
音を立てて椅子から立ち上がると、小百合の慌てたような声が聞こえた。
「ちがっ、お父さんにはなんの虐待もされてないよ!それは、ちゃんと調べてもらってるらしいから」
その言葉に、祐輝は俯くとまた、椅子にゆっくりと座った。
机の表面は肌色で、所々が汚れていたり、コンパスらしき物で傷ついている。
「噂で聞いたけど、紗波のお父さんは画家の卵なんだって。…有名じゃないけど、多分、少しは売れてるんだろうね。…紗波の絵が上手いのも、似たからかもしれない」
再び、沈黙が辺りを覆い、雨の音も鮮明に聞こえる様になった。
かけられた時計は、長身が九、短針が五十五を指している。
祐輝が口を開いた。
「…だから、久岡に感情が無くなった、って事か?」
小百合が、うん、と変事をして祐輝の方を向く。
空き教室の中で、物が動く音がしない状態で、五分が経った。
怪訝そうな顔をしてから、祐輝は呟く。
「…じゃあさ、あの久岡の席に座ってた奴と久岡が飛び出した事と、何か関係あんのか?」
目を伏せるのが見えた。



