君色キャンバス




「…で?久岡の母親はなんて言ったんだ?」



祐輝が眉を眉間に寄せながら、聞いた。



二人だけの空き教室がいやに広く感じ、窓に水滴がついている。



祐輝と小百合は、空いた席に座る。



「…お母さんはね、暴行した後、紗波にこう言ったんだ。紗波を優しく抱きしめながらね」



小百合が、額を手で覆いながら、気持ちのこもらない棒読みで、その言葉を口にした。



「…あなたは天才。やれば出来る。でも、賢くない紗波は、お母さんは嫌いなの。大丈夫、紗波は天才だから大好きよ」



小百合が机に肘をついて、なおも額を手で覆ったまま、いつもの声でそう言った。



(…天才の、久岡は好き?ふざけんなよ…)



祐輝の心の中に、激しい憤慨と少量の哀しみが込み上げてきた。



話はまだ、続く。



「虐待から助け出された時、紗波にすでに感情はなかった。無表情で、冷たい声で。…元々、紗波はあんな冷たくて鋭い瞳じゃなかった。暖かい目…」



小百合が目を閉じた。



「きっと、感情を消さないと…我慢ができなかったんだ…」



十秒ほど沈黙が続き、その間、雨は警告音のように、空き教室の中に鳴り響いていた。