ガチャ、と玄関の扉が開いていく。
「…なんです?」
出てきたのは、微かに紗波に似た、美しく黒髪の短い、高くて低い声をした女性だ。
母が、戸惑いながら、「あの…」と、話し出すのを小百合は聞く。
寒さが気にならない。
「その、近くを通りかかったら、家から紗波ちゃんの声が聞こえたもので…」
「あぁ…大丈夫です、お気になさらず。紗波がいらない事をしていたので、しかっていました」
女性は、イライラとしたように母を睨みつけている。
母は元来 穏やかで、しかし正義感の強い性格なので、たじろぎながらも言葉を繰り返す。
「いえ、ちょっと…紗波ちゃんが、痛がっているような声だなー、と思いまして…その、虐待とか…してませんよね?」
その途端、
「してる訳がないでしょう!!!」
と、その女性が母に掴みかかろうとした。
「躾です!将来に困らないためにも勉強をさせていただけです!お引き取り下さい!」
母と小百合は、急いで家に帰る。
小百合は、母が電話をかけるのを、ジッと見つめていた__



