君色キャンバス




小百合はその日、母に買い物を頼まれ、スーパーに出かけていた。



キュウリや人参など、メモに書かれた物を買い、夜 六時半頃に、やっと紗波の家の前を通りかかった。



途中で、仲の良い友達と会ってしまい、少しの間 話しあっていたのだ。



(なんだか、オバサンになったみたい)



そんな事を思ったのを、確かに覚えて居る。



辺りは、暗い。



もうすぐ卒業の冬という事もあって、風が吹きすさんでいた。



小百合は心細くなりながら、右手にスーパーの袋を持って、紗波の大きいとも小さいとも言えない平凡な家を見上げながら、前を過ぎようとする。



その時だった。



「…ゔっ…」



押し殺したような声が聞こえたのは。



続いて聞こえる、怒って怒鳴り散らしている、高くて低い女性の声。



小百合は足を止めた。



「紗波!どうしてこんな簡単な問題が出来ないの!?」



悲鳴を押し殺したような声。



小学六年生の小百合は、この時、何があったのかを想像する事ができた。



六年生になってから、紗波の感情が無くなった事と繋がりがあるのか考えて、小百合の身体はブルブルと震え出す。



「紗波!いい加減に…しなさい!!」



バンッ!



大きな、何かの音が聞こえた。



小百合はその音に一層 身体を震わせると、隣のとなりの自分の家へと駆け込む。



そして、



「お母さんっ!紗波の家から変な音が聞こえるの!」



小百合はそう言うと、母を紗波の家の前まで懸命に引っ張った。



押し殺したような声が、まだ続く。



大きな怒声と、大きな音も。



紗波の家のチャイムを押すのを、小百合はエプロンの裾を掴んで、母の後ろから見ていた。