「お前さぁ」



祐輝が心底 呆れた表情で、優しい茶色い瞳で、紗波を見つめた。



一つの傘は、祐輝と紗波、二人を包み込んでいる。



「ちょっとは何か反応しろよな。普通、雨が降ったら中に入るだろ」



シミのついたベンチに腰を下ろすと、少しだけ冷たく感じられた。



紗波が祐輝の方を見る。



その黒髪は少し濡れ、艶めかしく光り、虚ろな瞳が色気を醸し出す。



祐輝は、心臓が五月蝿く高まるのに気づき、そっぽを向いた。



「…」



心地良い沈黙が二人の間に流れる。



祐輝の耳には、鉛筆が、少し湿ったノートを擦る音と、雨の音だけが聞こえた。



熱い顔、高鳴る心臓、締め付けられる胸。



この思いは、なんなのか。



祐輝の頭の中を霧が占領するように、いくら考えても解らない__



しかし、漠然としたその答えを、祐輝は不意に理解した気がした。



それを信じる事が出来ず。



感情が無いという紗波と、喜怒哀楽が豊かな祐輝。



二人は雨の中、傘に包まれて過ごした。