『俺もあのくらい余裕持って、生きれたらいいのに』


そのまま、仰向けでパタリと倒れた俺に、麗奈ちゃんは『わかる』と小さく笑った。


『あたし達の世界は、いっつも急いでるもんね。目の前のことだけで精一杯なのに、先のことばっかり意識させられて』


…ほんと、それ。

俺は今、この高校一年っていう貴重な青春を謳歌するのに、精一杯だ。

大学だとか将来だとか、そんな先のことまで考えられない。

勉強しとかなきゃ後が大変だぞ、とか、そんなんばっか。

わかるんだけどさ、大変なのは。

けど、先の見えない未来より、友達と笑い合える今の方が、よっぽど大事なんだよ。


そう思いながら、また目を閉じる。

麗奈ちゃんの、飾りっ気のない落ち着いた声が耳に響く。

『…急かされるのに、疲れたなぁって思ったら、たまに空を眺めるの。なんか、落ち着くんだよね』

…うん。


『曇り空でどんよりしてたり、雨音がうるさかったりするけどさ。悩んでること全部忘れて、それだけを見てるの。癒されるよ』


……癒される、か。

俺はどちらかといえば、麗奈ちゃんのこの淡々とした声を聞いてる方が、癒されるんだけど。