利乃をまっすぐに見つめる俺に、彼女は嬉しそうに笑う。

『ほんとう?』

『…うん。だって利乃ちゃん、友達つくるの下手だから』

『あははっ』

声を上げて笑う利乃は、クラスの女の子達と違うところなんて、ない。

強い、女の子。


けど誰より、前向きに生きてる女の子だ。


『…じゃあ、わたしが辛いって叫んだときに、すぐわたしだってわかるようにしなきゃ』

愛らしく微笑んだ利乃が、俺を見つめる。

俺が首を傾げると、『そうだなぁ、“慎也くん”はみんな呼んでるからぁ』とかなんとか、言って。

誰より可愛くてしとやかな笑みをして、彼女は口を開く。

俺の手首に、一生外れない、鎖をつけるために。



『 “ 慎ちゃん ” 』



…そんな無邪気な言葉で、利乃は俺に優しい鎖をつけた。

目を見開く俺に、利乃は目を細める。

そして、『わたしだけね』と言った。


『わたしだけが、“ 慎ちゃん ”って呼ぶんだよ。だから慎ちゃんも、わたし以外の人にそう呼ばせちゃ、ダメ』


…薄暗い海には、微かに青が満ちていて。

利乃の瞳に、青が映る。

わずかに残った涙の粒が、月明かりに光る。

限りなく透明なそれは、とても愛しく見えた。