「…ごめん」
また、涙が溢れて、ポタリと廊下に落ちた時。
同時に、上から降ってくる謝罪の言葉。
「…っ、ごめん…」
「…は?」
君花がかっこいいと、顔を赤く染める相手が、情けないほど顔を歪めて、俺に謝った。
俺より断然、人間的にも、男でも、上をいく男が、俺に謝っている。
「…なにに、謝ってるわけ」
「…そうしないと、俺が自信持てなかったからだよ」
「…」
自信…?
「…あいつは、きみかは、毎日毎日、ずっと“朔ちゃん”の名前を出して、何してても、あんなにひどいことされても、それでも、朔ちゃん朔ちゃんって…」
「…」
「俺が、最初に飯に誘った時も、俺を振り払ってお前のところに行った。この間だって、お前にキスされたことに対してじゃなく、お前を傷つけたことに泣いていた」
「…君花、が?」
「…そーだよ」
君花が、俺を傷つけたと思って…
「俺は、お前に負けてると思ってた。いくら好きだと言っても、勝てない気がした。だから思ったんだよ、白黒つけたいって」
「…」
「…カッコ悪いって思われても仕方ないと思う。けど、だから、お前にも逃げないで向き合ってほしいと思ってる」
ワガママでごめん。
目の前の男は、そう付け足して、頭を下げた。
その瞬間、思った。
こいつも、俺と同じだったんだと。
カッコ悪いと認めた。情けない顔をした。
君花の前では、絶対に見せないであろう顔を、俺に見せた。
これはきっと、同じ女の子を好きな俺だからこそ見せた、本当の、欲深い男の顔だ。



