ふと、アカツキがポケットから携帯を取り出した。着信中らしいそれを、耳に当てる。

「もしもし?」

 横目で見ていたら、アカツキの表情が突然変わった。通話を切ると、急いだ様子でセイに声をかける。

「悪い。俺、帰る」

 セイが答える前に、王子は廊下を走っていった。

 あっけにとられたあと、私は急いでセイにカバンを突き返した。

「あの、ごめん。私も、用事思い出したから」

「は? おい、ちィ」

 セイの声を振り切るように、私はアカツキのあとを追って走り出した。

 王子は猛スピードで階段を下り、靴を履き替え、あっというまに校門をくぐる。

 速い。砂色の髪が、どんどん遠ざかっていく。

 足の長いアカツキに本気で走られたら、追いつけない。

「はあ、はあ」

 緑の衣をまとったイチョウ並木で、私は足を止めた。息がきれて、口で呼吸をする。

「アカ、ツキ……」

 つぶやいた声が、湿った空気に消える。