そんな訳で、リビングに居るのは私と大樹の二人切り。



会話している余裕もなくご飯を掻き込む大樹を、食卓の向かいの椅子に座り、頬杖ついて見ていた。



聞きたい事は沢山あった。

でも、食べ終えるまで口を開かず、辛抱強く待っている。



今話し掛けると、ご飯粒が飛んできそうだし…



聞きたい事も言いたい事も山程あるけど、大樹には感謝もしている。



折角見つけたスキー教室のバイトを、後輩に譲ってまで流星を捜しに行ってくれた。



置いてきぼりを食わされた時は腹が立ったけど、それについての文句はもう言わないよ。



捜してくれて、見つけてくれてありがとう。

でもね、状況報告の連絡くらいはして欲しかった!



スマホを置いて行ったからこっちから連絡する手段はないし、

流星に会えたかどうかも、我妻さんがメールをくれるまで分からなかった。



無事に流星の下に辿り着き、帰りの面倒も我妻さんが見ると言ってくれたから安心したけど、

大樹が一人で海外って…
本当に心配してたんだから。



語学はてんでダメだし、海外でトラブルに巻き込まれ…

いや騒動を引き起こしてるんじゃないかと、気が気がじゃなかったよ。



それに滞在が長過ぎる。

いつ帰るとも連絡しないで、呑気に観光しやがって…

待っているこっちの身にもなって欲しい。




そんな恨めしげな私の視線を無視して、揚げ立てのかき揚げに噛り付く大樹。



シャクシャクと美味しそうな音がリビングに響くのを聞きながら、

こいつはこう言う奴だと、諦めの溜息をついた。




10分後、全てを平らげ満足げに食卓椅子に踏ん反り返るのを見て、

やっと一番聞きたかった一言を聞いた。




「で?流星は?」




「おー、あいつ何かやる事あるから、まだ帰れねぇって」




「やる事って?」




「翻訳の仕事やってるらしいぞ?

やりかけの仕事やって、それからあの家の人達に世話になったから、恩返ししてぇって言ってた」




「そっか…」





大樹と一緒にすぐに帰って来ると、思っていた訳じゃない。



3年と言う長い月日で、流星は彼なりの生活を向こうで構築していた筈。


彼の性格から言っても、後片付けと言うか、何もかも放ってすぐに…とはいかない事は予想していた。