入学から一月経った。


5月上旬の早朝、
眩しい日差しと小鳥のさえずりで目が覚めた。



パジャマ姿のまま部屋を出て、2階の廊下の窓から庭を眺めた。



柏寮の狭い庭、
柏の古木が一本窮屈そうに立っている。

その枝に小鳥が遊びに来て、可愛らしい鳴き声を聴かせてくれた。



スズメ、ホオジロ、セグロセキレイ…

すぐ近くに多摩川が流れているため、
水辺を必要とする鳥達の姿もたまに見かける。



フラノでも良く見る種類の小鳥達に心が和んだ。

それから、この柏の古木も私に故郷を想わせる。



フラノの畑の中にぽつんと立っていた、柏の木を思い出していた。



合格発表の日の通学途中、
氷雪に覆われ樹氷となった柏の木を、大樹と弟の青空と見ていた。



大樹には
「樹氷に気を取られるなんて余裕だな」
と言われたけど、

あの時は朝からソワソワして、気持ちに余裕なんか全然なかった。



あれから三ヶ月も経っていないのに、既に懐かしい。



フラノを思い、少し淋しくなってしまった。



ホームシック…
そんな時はやっぱりこれだよね。



部屋からスマホを持って来て、廊下の窓際で電話を掛けた。




「もしもし大樹?おはよー!」



「ん〜…何時だ?…紫…こんな朝っぱらに何の用だよ……」



「特に用はないけど、
小鳥の声で早く目が覚めちゃって。暇潰しに付き合ってよ」



「あ゛?てめぇはババアか。
まだ眠いんだけど…
昨日、青空と2時までゲームやって……んー…寝かせてくれ…グー…」




あっ 切られた。
あいつらは平日なのに、そんな遅くまでゲームしてたんだ。



私がいないのをいいことに、毎日ゲームばかりやってるんじゃないでしょうね…



青空に勉強と家の手伝いもしなさいって、後で言わなければ。