カタカタと小さな音を立てゆっくりと開いた教室のドア。
そして「ヒッ」と息を飲むような悲鳴も聞こえた。
私はまだ振り向かない。
教室の真ん中に一人椅子に座り、ドアに背を向け静かに窓の外を見詰めている。
「あああ、あの…
あなたはこの前、うちの高校に来た人ですよね…?
矢野…い…いえ山本です。
みみ水谷徹君の…担任だった山本です…」
震える声を聞いてから私は徐(オモムロ)に立ち上がる。
ゆっくりと彼女の方に向き直り、俯いていた顔を上げ、彼女と視線を合わせた。
「ヒッ」と彼女はまた悲鳴を上げた。
彼女の恐怖心が私の存在を不気味に思わせているのか…
それとも本当に不気味な顔付きをしているのかは自分では分からない。
彼女は喪服にも見える黒いスーツ姿だった。
手には大きめのショルダーバッグと、仏花の花束。
仏花…
今更の供養?形だけの哀悼の気持ち?
おかしくて「ククク…」と笑ってしまう。
水谷徹は花なんか貰っても満たされないよ。
彼が欲しい物は…


