幾分ホッとした表情になる弟。
私より三歳下で中学一年生。
まだ背も小さく制服はブカブカだ。
この子を育てるのは私の役目。
出来なかった母の代わりにやらないといけない。
水谷徹以外は今まで通り無視し続ける。
自分の為に…家族の為に…
―――――…
次の日曜日、雨。夏空には分厚い黒い雲。
ザアザアと激しく地面を叩く雨粒は、水谷徹の怒りか悔しさか…
「学校に用事」と言って私は家を出た。
傘を差してなだらかな下り坂のアスファルトを進み、いつものトンネルに入る。
中に入った途端に雨が止む。
トンネルだから当たり前か。
それでも傘を閉じずに差したまま、今日も無言で彼の前を通り過ぎた。
亮介君がいる。
いつもいる。
この小さなトンネルに繋がれた彼は、ここから出られず、
母親が来る日をじっと待っている。
私をチラリと見て求める人ではないと分かると、顔を伏せ膝を抱える彼。
胸がズキズキと痛い。
一人だけと自分に誓い願いを叶える相手が、12歳の哀れな少年ではない事が申し訳なく…
今日もちっぽけな良心から血が流れて行く。
痛くて苦しくて、駆け足でトンネルを出た。


