「あれ?この×印まだ消えてないね。
どれだけ強く書いたんだよ。痣みたいになってる…」
私の肩を抱きながら、潤一先輩の指先が首筋に触れた。
ゾクリとした。
黒い学生服の彼に触られた時の様に…
いや、それ以上に気持ち悪い。
あんなに爽やかで素敵に見えていたその顔も、
キスされそうな距離に近付くと気持ち悪く見えた。
いやらしい色の目、
興奮して荒くなる鼻息。
真っ白な歯の隙間にチラリと見えた赤い舌先が、
獲物を前に舌舐めずりする蛇の様で気持ち悪い。
「私…帰ります…」
「どうして?来たばかりなのに帰らないでよ。
大丈夫…俺は優しいよ…後悔させないから…」
恐怖で固まる体に回されるこの腕がキモチワルイ…
先輩の腋の下から漂う、汗と制汗スプレーの混ざった匂いがキモチワルイ…
首筋の×印をペろりと舐めた、ぬるい舌先がキモチワルイ…
恐怖と気持ち悪さに肌が粟立ち、冷汗が背中を伝って流れ落ちた。
逃げないと…
そう思っても、カタカタ震える足に力が入らない。
「ヤ…ダ…」
震えながら絞り出す様にそう言うと、
潤一先輩は喉の奥で小馬鹿にした様に笑う。


